今月 1 日に HOYA から「MW10 HiKARI」の全国発売がアナウンスされ、このことを報じたいくつかのマスコミ記事を閲覧している中で、「夜盲症の人々にとって良くない流れになってきた」と痛感したので本稿でそう思った理由をご説明します。もし報道ベースの記事を通じて MW10 HiKARI の情報を仕入れたという夜盲症の方やそのご家族・ご友人におかれましては本稿で述べる MW10 の実態にも耳を傾けていただき、それを吟味した後で購入するか否かを決めることをおすすめします。
理由を説明する前に断りを入れておきましょう。マスコミ報道の記事というのは原則的にメーカー発表の情報や事実をベースに脚色しない内容にされていると思うので、そうした記事が悪いとは全く思いませんし、マスコミ報道は事実を世に伝達するための有効な手法の一つですから、マスコミ報道は大変意義深いことだとも考えています。
しかしながら、そうした記事の大半では、MW10 があたかも魔法のメガネのように扱われている気がしてなりません。具体的には、MW10 の実態はおろかデメリットにも全く触れられていない記事が殆どで、これは夜盲症の人々に過度な期待を持たれやしないかと大変危惧しているところです。
ただ単に、「暗い場所でより見えやすく」と書かれていても、MW10 の効果や価値というのは現在の見え方やライフスタイル、その人の「見えない経験」によって大きく変わってくる話であり、そうした部分も含めて検討し丁寧に説明しないと簡単に憶測や誤解を生んでしまうのです。
直前に述べたこととはリンクしませんが、ここで夜盲症ではない人にも分かる例を挙げますと、MW10 のコントローラーやケーブルは正直言って邪魔ですよね? 私は純粋に邪魔だと思っていますが、これらは MW10 でリアルタイムかつ滑らかな映像を見るのに絶対に欠かせない部品ですから「容認」しているわけです。
コントローラー用のポーチが製品に付属してきますが、コントローラーを専用ポーチに収納してポーチを肩にかけて持ち運ぶのことは実用的だと思いますか? 筆者は MW10 を常用するユーザーではないため、わざわざコントローラーをポーチに収納することはありません。いつもジャケットのポケットやパーカーのフードあるいは前ポケットに入れて持ち運んでいます。このような持ち歩き方はメーカーの推奨することではありませんが、私生活の中で使用することを考慮すれば、このような製品設計を非難することは妥当なことだと考えています。
別の例を挙げましょう。今度は夜盲症の方なら大体納得していただけるはずです。弱視が進んでいる方と夜盲症だが昼間や明るい場所では普通に見える方との間で MW10 の効果はまるで違うことです。
前者は MW10 によって人生が変わるほどの視界の改善を訴えるかもしれませんが、後者の人からしてみれば MW10 の完成度というのはこちらの記事で触れているように、それは容易にディスれるほどでしかなく、見え方の個人差や MW10 の構造上から生じる制限に触れもせずに「より見えやすくなる」と表現すると、後者の人までも前者の人と同様に期待させることになりかねません。
筆者についても筆者の見え方でしか MW10 の実態を語るしかできず、それを良く理解しているため、大勢の人々の前で軽々しく MW10 の体験談を披露することを控えています。MW10 の価値を 10 分や 15 分で語ることなんて不可能ですって。本記事の内容をお話しするだけでも軽く 1 時間は語れます。そういう時間的な制約と次に述べる立場的な問題によって筆者は MW10 の事を大衆の前で語ることをしません。
イベントや展示会等で MW10 の体験談を披露することは、それがオフレコ取材であれば目をつぶりますが、登壇者としての立場からメーカーに忖度して MW10 の制限やデメリットに全く触れずに語られた終始ポジティブな内容の発言のみがマスコミ記事に載ることはとても恐ろしいことです。
もう一つの懸念事項は、上記のような期待をもたれやすいマスコミ記事が量産されてしまわないか」ということです。MW10 の主なターゲット層は夜盲症でお悩みの方なので、そうした人たちに情報を伝えるのであれば夜盲症の人の立場に立った公平な目線が必要になると考えています。
次は筆者の勝手な憶測にしか過ぎませんが、おそらく体験談を披露された方々は偽り無く真に MW10 によって見えるようになったと感じておられることでしょう。しかし、その方々は口を揃えて、「でもね・・・」と洩らすはずです。この「・・・」の内容が私のような夜盲症の人々にとって重要なことなのです。
考えてもみてください。登壇者が MW10 をディスりますか? 不満や改善点を指摘することはあると思いますが、こちらの記事のように酷評している方はいないはずです。でも筆者はしています。ここが筆者と他の方々との大きな違いです。登壇している時点でポジティブな内容でまとめるだろうというのは簡単に予想できます。もし、イベントや展示会の場でこういった偏りのある体験談が披露され、それがマスコミ記事を通じて世間に流布されると、もう筆者は目も当てられません。
今お伝えしたことは筆者の過剰な心配でしょうか? 当サイト以外にネットで目にする MW10 の情報はメーカーサイトやマスコミ記事が大半です。その中で上記のようなマスコミ記事しか目にしなければ夜盲症の人々は簡単に期待感を持ってしまうことでしょう。それ故、筆者が今のこの状況を心配しているのは筆者からしてみればごく自然なことなのです。
以上の意見を理由に、筆者と当サイトはまっとうな根拠を持ち、しっかりと MW10 をディスることを存在意義だと見出しており、今後も本記事のようなユーザー目線の一言物申す活動は続けていくつもりです。